令和3年5月号 善養寺惠介 さん(尺八演奏家)

更新日:2021年4月26日

プロフィール

善養寺惠介ぜんようじけいすけさん

(久米在住)

2020年秋、学問や芸術などで功績ある人に贈られる紫綬褒章を受章。
6歳から虚無僧こむそう尺八の手ほどきを受ける。
東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。
1999年の第1回リサイタルを皮切りに演奏活動を続け、文化庁芸術祭大賞、日本伝統文化振興財団賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。
演奏会の後に、季節のおいしい料理を好きなお酒とともに楽しむのが至福の時。

人の心に触れる 「異端」の虚無僧こむそう尺八

「自分の尺八は、いわば『異端』。芸術音楽としての尺八とはやはり違うんです」。
柔和な口調で謙虚に語る善養寺惠介さん。
長年の演奏活動に数々の受賞歴。順風満帆な演奏家人生と思いきや、その道のりは苦労と苦悩の連続だった。
  
尺八との出会いは父親の影響。
東洋思想や禅の教えから尺八に強く引かれていた父は、精神修養の一環として善養寺さんにも自らスパルタ指導に当たった。
音楽、芸術として尺八と向き合うことを勧めてくれたのは、中学に上がってから指導を受けた父の兄弟子だった。
音楽として尺八探求の道を歩むことを決意した善養寺さんだったが、父親とは対立することとなった。
高校卒業後、尺八で生活はできないという父の言葉に従い、一度は父のもとで鳶の仕事を手伝った。
2年後に自力で邦楽専門の学科がある東京藝術大学を受験し、入学。しかし、これが大いなる挫折の始まりだった。
理由は、善養寺さんが学んできた尺八が「虚無僧尺八」だったから。
時代劇などで見ることがある、顔を隠した深い編笠あみがさかぶって尺八を吹く禅僧の姿、その尺八が虚無僧尺八といわれるもので、禅の修行として成立し伝えられてきた。
日本の音楽を代表する、箏や三味線と合わせて「三曲」と呼ばれる尺八とは、楽器は同じでも全く異質のものだったのだ。
虚無僧尺八ではない尺八に、なんと音楽大学に入学して初めて出会った善養寺さん。
もちろん、箏や三味線との合奏の経験もない。
一気に劣等感のどん底に突き落とされた。
「目の前で幕が下ろされた気がしました」。
長年身についた虚無僧尺八のテイストが、どうしても演奏に表れてしまう。
卒業後も「王道」の世界に入ることはなかった。
 
善養寺さんは虚無僧尺八の演奏スタイルを続けた。
もうやめよう、と思うたびに、善養寺さんの尺八の独創性に引かれる人たちが現れては背中を押した。
やがてその演奏は三曲の世界でも注目を集めるようになり、紫綬褒章を受章するまでに。
心の豊かさを求める時代に回帰し、精神性を重視する虚無僧尺八の魅力に世の中が一周回って気付いたのかもしれない。
が、「異端」を自覚しながら探求を続ける覚悟は、いかばかりだったろうか。
 
「一音に永遠を感じられる、世界に類のない独特の世界観」。
尺八の魅力を、善養寺さんはそう語る。
人の声に近い音域で、人間の内面を赤裸々に表すその音は、深く内面を見つめる善養寺さんの虚無僧尺八を通して今、私たちの心に強く語りかける。
「気軽に楽しめる音楽があってもいい。けれど音楽は、人が美しく生きることを深く思索し求める手助けになることができる。自分の虚無僧尺八がその一助になれたらいいですね」。
多くの挫折や葛藤を微塵みじんも感じさせない、穏やかな笑顔だった。 
(取材:加賀谷)

ステージ情報

今秋、所沢市文化祭総合フェスティバルに出演予定。
善養寺さんの生演奏が聴けるチャンスです!
詳細発表までお待ちください。

開催日

令和3年9月5日(日曜)

場所

市民文化センターミューズ

web版こぼれ話

ボイジャー探査機のレコード盤

1977年に打ち上げられ、今もはるか宇宙のかなたを旅しているボイジャー探査機。
いつか知的生命体に出会う日のために、地球のことを記録したレコードが搭載されています。
収録されているのは、いろいろな自然の音や多くの言語によるあいさつ、そして世界中の音楽など。
日本から唯一選ばれたのが、尺八の曲でした。
収録された「鶴の巣籠すごもり」という曲を演奏しているのは、人間国宝の山口五郎氏。
東京藝大で善養寺さんが師事した先生でもあります。

お問い合わせ

所沢市 経営企画部 広報課
住所:〒359-8501 所沢市並木一丁目1番地の1 高層棟3階
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